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汗腺を直接減らす|特殊機器を要する手術|超音波破砕粉砕吸引-汗腺除去



超音波破砕粉砕吸引器:破砕・送水・吸引鈴木敏彦、武田啓:
腋臭症・腋窩多汗症治療・超音波破砕粉砕吸引part.1
形成外科増刊号vol59より抜粋
P121-128



超音波破砕粉砕吸引 -汗腺除去-1Part.1

はじめに

腋臭症は、腋窩部アポクリン汗腺からの汗が皮脂と混ざり合い、皮脂常在菌により分解され悪臭を発生する病態である。理想的な外科的治療としては、皮脂血管網や神経を温存しつつアポクリン汗腺を徹底的かつ広範囲に除去すること、手術時間が短く簡便であること、患者のダウンタイムが少なく社会復帰が短期間に行われること、合併症が少なく手術創瘢痕が可能な限り目立たないこと、などが挙げられる1)。 本稿では、われわれが行っている超音波破砕粉砕吸引法による腋臭症手術の実践的な手順、および治療効果の向上と合併症の予防のための工夫について紹介する。

I 適応

初診時、腋窩に乾いたガーゼを15分間挟み、昭和大学藤が丘病院形成外科方式2)による判定で、 腋臭の程度がgrade II〜Ⅳの症例を適応とした2)〜4)(表)
また、自己臭恐怖症・自己臭妄想の患者は慎重に除外した。

表)腋臭の程度判定(昭和大学藤が丘病院形成外科方式)

grade 0 臭わない 臭わない
grade Ⅰ 弱い 注意深く嗅げばわかる
grade Ⅱ やや強い 鼻先に近づければはっきりわかる
grade Ⅲ 強い 鼻先から少し離してもはっきりわかる
grade Ⅳ 非常に強い 手に持っただけではっきりわかる

Ⅱ 超音波破砕粉砕吸引器について

1976年Cavitron社(米国)は、歯石除去のために「超音波スケラー」を開発し、1977年ころより消化器外科領域を中心に超音波手術器を臨床応用した。 CUSA(Cavitron Ultra sonic Surgical Aspirator)と呼ばれている。
超音波発生装置で発生させた電気エネルギーは、ハンドピースに内臓されている振動子(トランスデューサー)により超音波振動に変換され、ハンドピースに取り付けたチップを振動させて、直接チップ先端を接触させることによって目的組織を破砕する。破砕された組織は、先端からイリゲーション水を術野に送水し、同時に吸引を行うことで生理食塩水とともに吸引除去される(図1)
最大の特徴は、血管や神経組織など弾力性の高い組織へのダメージを抑えて、脳、肝、腎、脂肪組織など、乳化されやすい組織を選択的に破砕吸引できることである。1992年に西内ら2)が汗腺組織破砕にも効果があると報告し、ほかにも熱傷治療や脂肪吸引などに使用されてきたが、現在では腋臭症が主な適応となっている5)
われわれが使用している超音波破砕粉砕吸引器はSONOPET®︎(UST-2001:日本ストライカー社)で、2001年以降日本国内に1000台近く出荷されており、脳神経外科、整形外科、外科、形成外科など複数科で使用されている。腋臭症治療用のハンドピースとして腋臭用チップもあるが、われわれはスタンダードチップを使用して治療を行っている(図2)。

超音波破砕粉砕吸引器:破砕・送水・吸引
図1)超音波破砕粉砕吸引器:破砕・送水・吸引
SONOPET®︎UST-2001)本体とスタンダードハンドピース
図2)SONOPET®︎UST-2001)本体とスタンダードハンドピース

Ⅲ 術前説明

術前のインフォームドコンセントが重要である。
①腋臭症施術はアポクリン汗腺の減量手術であるため、臭いに対しては効果がはっきり認められるが、多汗に関してはさほど改善を見込めない。また、100%症状がなくなることはない。
②術後6〜7日の 腋窩部の固定・安静が必要である。
③術後1〜2ヶ月は腋窩手術部拘縮が認められるが、自然軽快する。
④超音波破砕粉砕吸引法は、他の方法と比べ合併症が少ないが、若干の瘢痕は残る。
⑤再発した場合も再手術可能である。

Ⅳ 手術の実際

1-術前・デザイン

腋窩は剃毛を行い、仰臥位110°肩関節画外転の体位で、アポクリン汗腺破砕の範囲として有毛部より1〜2cm外周をマーキングする。そして有毛部中央に約1cmの切開線をデザインする(図3)

2-麻酔

10万倍エピネフリン添加キシロカイン溶液30mlにメイロン1Ⅴと生理食塩水150mlを加え混合したものを使用して、片側60〜80mlを術部皮下にまんべんなく注入してテュメセントテクニックに準じた麻酔を行っている。マーキングの外周から中心部に向かうように注入し、術部を浮き上がらせてふやかすことによって、麻酔と止血効果を高め、吸引をスムーズに行うことができる。

3-手術

⑴皮膚切開と剥離

仰臥位110°肩関節外転の体位で、腋窩のシワに沿って約1cmの切開を加え、 超音波破砕粉砕吸引器がスムーズに入るように剥離反剪刀で鈍的に皮膚切開の周囲1〜2cmを皮膚剥離する。次に創縁を助手を双鈎で牽引させながら、出力65%・SUCTION50%・IRRIGATION35ml/分で、超音波破砕粉砕吸引器のチップ先端を皮膚と平行にマーキング部まで、汗腺組織下を剥離する。くれぐれも強い力で強引に索状物を物理的に切断してしまうようなことはせずに、超音波破砕粉砕吸引器の重さがわかるくらいは軽く持って、皮膚切開部の挿入孔や剥離する方向を変えながら優しく操作すべきである。通常、この操作までほとんど止血を必要としない。

⑵汗腺組織破砕と吸引

超音波破砕粉砕吸引器の出力設定を50%に変えて、助手に双鈎で皮膚切開部の辺縁を超音波破砕粉砕吸引器の挿入方向と反対方向に牽引させながら、術者は左手でチップの先の延長線上にカウンターを当てて、破砕吸引部をテント状に一定のテンションがかかるように保つ。そして、ハンドピースのチップ先端が皮膚に対して45〜60°の角度で当たるようにして、汗腺組織を破砕吸引する(図4)。超音波破砕粉砕吸引器が作動している時には高熱を発するため、1ヶ所にチップ先端が当たりすぎると熱傷を生じやすい(特に直角に当たっている場合には熱傷に注意が必要)。そのためハンドピースを軽く握って、チップ先端を常に細かく動かしながら熱傷を回避して、汗腺を皮膚から超音波の振動でこそげ落とすイメージで行う必要がある。決して強い力で物理的に皮膚に押し付けないように注意する。皮膚表面から少し毛根が持ち上がり、毛孔より皮膚が浮き出てきたら、十分に皮下の汗腺組織が破砕されたと考えて操作を終了する(図5-a)。破砕した部位の皮膚をつまんで皮弁の薄さを確認し、皮膚切開部よりアポクリン汗腺の破砕状態を視認する(図5-b)。最後に、超音波で破砕できない皮膚切開部より半径1.5〜2cmの部位汗腺を剥離反剪刀で直視下に剪徐する。止血後、6-0ナイロン糸にて2層に縫合処置を行う(図6)。特にドレーンは必要としない。通常1側あたり約15〜20分である。

⑶術後処置と固定

ドレッシングとしては、操作を行なった部位に軟膏ガーゼを当てた上にガーゼでくるんだナイロン綿を当てて、ノンアルコール性保護膜形成剤リモイスコート®︎(アルケア社、日本)をテープが貼られる範囲に十分に噴霧した後に、110°肩関節外転の位置でパーミロール®︎(日東メディカル社、日本)を使用して軽くテープ固定する。 外来通院は、原則として術後2〜3日目に血腫・皮膚壊死など創部の状態の確認を行い再度固定して、術後6〜7日目に固定抜法、前抜糸を行っている。その間、患部以外の入浴・シャワーは特に制限はなく、軽いデスクワークであれば手術翌日より仕事復帰も許可している。運動制限は術後2週まで肩関節を90°までとし、その後はなるべく日に数回は肩関節を伸展させるように指導を行なっている。

手術時デザイン
図3)手術時デザイン
破砕吸引時のハンドピースと手の位置
図4)破砕吸引時のハンドピースと手の位置
皮膚に一定のテンションをかけるための助手の双鈎牽引と術者左手の位置を示す。
破砕吸引時皮膚および皮下の状態
図5)破砕吸引時皮膚および皮下の状態
(左)少し毛根が持ち上がり毛孔より皮膚が浮き出てくるまで破砕吸引する。
(右)皮膚切開部よりアポクリン汗腺の破砕状態を視認する。
手術終了時の皮膚の状態
図6)手術終了時の皮膚の状態

Ⅴ 治療成績および合併症

われわれの経験した同一クリニック、同一超音波破砕粉砕吸引器、同一術者で3ヶ月以上経過観察できた過去6年間48例について分析した。症例は男性7例、女性41例、年齢は16〜63歳(平均30.8歳)で、腋臭の程度はgrede II17例、gradeⅣ11例であった。5例に「まだ臭いが気になる」と不満があり、2例が再手術となったが、43例(89.6%)は治療効果に満足していた。

1-血腫・皮膚壊死・創離開

特にタイオーバーや皮弁のアンカリングを行わずに軽いテープ固定のみでも、血腫形成や、血行不全による皮膚壊死・創離開を認めなかった。これは超音波破砕粉砕吸引器が、血管や神経などを温存しながら汗腺を破砕できるために、出血が少なく皮弁への血行も温存されるためと考えられた。

2-熱傷

表皮部分壊死12例(25%)、真皮部分壊死3例(6%)であった。表皮壊死は10日以内に治療して瘢痕形成はなく、真皮壊死は3例とも1〜2ヶ所3〜5mmほどの白色瘢痕が残ったのみであった。 熱傷は、超音波破砕粉砕吸引器作動時にハンドピースのチップ先端に高熱が発生するために生じる。そのためチップ先端を常に細かく動かしながら熱傷を回避していたが、今回の結果で表皮壊死が多かったのは、治療効果を上げるために毛根が浮き上がり、毛孔より皮脂が出てくるまで汗腺を破砕したためと考えられる。この操作を緩めると、毛根はほとんど残り合併症も減少するが、汗腺除去が不完全になり治療効果も明らかに減少する。剪除法のように直視下で汗腺を除去できるわけではないため、瘢痕形成とならないぎりぎりまで破砕する必要がある。この点が、操作に経験を要する部分ではあるが、瘢痕治療となんることは少なく、剪除法に比べれば比較的習得の容易な安全性の高い手技であると考える。

3-皮下硬結・拘縮

術後1ヶ月は皮下瘢痕によって腋窩の硬結・拘縮が一時的に起こるが、創傷治癒の一環でほとんどが自然治癒する。

4-テープかぶれ

術後の固定として弾性テープで圧迫固定を行なっていた35例中12例(34.3%)に、テープかぶれが比較的高率に認められた。さほど強く固定したわけではなかったが、腋窩周辺の皮膚は薄く柔らかいため容易にテープかぶれを起こし、治癒まで水疱・びらん部のヒリヒリした痛みが続き、治癒後も同部色素沈着が改善するのに期間を要するため、ノースリーブの服を着ると目立つなどの不満があり、その対処に難渋していた。 そこで2年前から、テープの貼られる部位をより愛護的に保護するために、保護膜形成剤リモイスコート®︎を噴霧後にパーミロール®︎によるテープ固定を行うようになり、テープかぶれを起こすことがなくなった。(13例中0例)。テープかぶれ対策は、術後ケアの重要な要素であり、臥位にて固定終了後、立位にしてテープが皮膚に負担をかけていないことを再度確認している(図7)

5-表皮嚢腫

1年後、炎症を繰り返す直径5mm程度の表皮嚢腫が2ヶ所に出現した1例を経験した。治療には切除を要した。超音波破砕粉砕吸引法では、表皮嚢腫発生は剪除法と比較して非常に少ないとされている。

6-術後の再発

臭いが完全に元に戻ることはないが、5例に「まだ臭いが気になる」と不満があり、そのうち2例が再手術となった。再手術は術後6ヶ月以上経過してから行い、あらかじめ臭いの気になる部分を患者に確かめ、マーキングして、その部分の中心に小切開を加え、超音波破砕粉砕吸引器による汗腺除去を追加した。再手術した2例は、術後満足を得ることができた。

テープかぶれ回避のための工夫
図7)テープかぶれ回避のための工夫
ノンアルコール性保護膜形成剤リモイスコート®︎を噴霧後、パーミロール®︎を使用してテープ固定する。
術後1年6ヶ月の所見
図8)術後1年6ヶ月の所見
腋窩瘢痕は目立たない。

Ⅵ 理想的な腋臭症手術とは

理想的な腋臭症手術に必要な条件としては、
①目立たない最小限の手術瘢痕
②血腫形成や皮膚壊死などの合併症がほとんどなく、早期に創治癒すること
③手術時間が短く、術後に苦痛を伴わず早期に社会復帰できること
④血管や神経などの組織をできるだけ温存しつつアポクリン汗腺を十分に除去すること
⑤特殊な器具を必要とせず、手技が容易であること などが挙げられる。8)〜11)

超音波破砕粉砕吸器による腋臭症手術は瘢痕もほとんど目立たず(図8)、①〜③に関しては理想に近いと考えららるが、④のアポクリン汗腺除法の確実性に関しては、直視下で除去する剪除法には及ばない。そのため、その欠点を補うためにわれわれはいくつか工夫を加えている。超音波破砕粉砕吸引器の操作に関しては、有毛部を越えて広めに剥離し、アポクリン汗腺を破砕する面積を多くして9)10)、破砕は少し毛根が持ち上がり毛孔より皮脂が浮き出るところまで操作している。丁寧にこの手順を守れば、剪除法に近い効果を上げることが可能である(図9)。さらに、超音波破砕粉砕吸引器が操作しにくい腋窩中央の皮膚切開部付近1.5〜2cmは、直視下にアポクリン汗腺を剪徐して治療効果を向上させている。10)
⑤に関しては、手術機器が特殊・高価であることは確かに欠点であるが、超音波破砕粉砕吸引器は他科でも使用されており、他社製品も含めると1000台以上が総合病院に導入されている。外科では肝切除、脳神経外科では、脳腫瘍(グリオーマ)切除、整形外科でも脊椎腫瘍切除にてよく使用されているスタンダードハンドピースで腋臭症の手術を行うことができるため、この手術方法がさらに普及する素地は十分にあると考えられる。また、破砕部の皮膚にテンションを加えて常にチップ先端を動かすことを確実に行えば、特にイリゲーション水を冷却8)しなくとも熱傷を回避することが可能で、他の手術法(剪除法、稲葉式削除法)と比べても大きな合併症もなく、手技は比較的容易に習得可能である10)11)。以上より、最小限の瘢痕で、剪除法に近い治療効果を期待できる超音波破砕粉砕吸引法は、腋臭症治療の優れた手術方法の1つであると考える。

病理組織学的所見(HE染色)
図9)病理組織学的所見(HE染色)
超音波破砕粉砕吸引法の術前・術後に採取した皮膚切開部より3cm離れた腋窩皮膚の組織所見では、アポクリン汗腺はほとんど除去されていた。
<文献>
  1. 1)酒井倫明:超音波メス法(ⅩⅤ.腋臭症・多汗症)、美容外科手術プラクティス2、市田正成ほか編、pp510-512.文光堂、東京,2000
  2. 2)西内徹、輪湖雅彦、大谷謙太ほか:超音波メスを用いた腋臭症の治療.形成外科35:971-979、1992
  3. 3)秦維郎、飯田秀夫、森弘樹:腋臭症.形成外科44:S291-S296,2001
  4. 4)阿部浩一郎、見寺絢子、大村勇二:超音波メスによる腋臭症治療(第1報);効果と合併症に関する検討.日美容外会報17:151-158,1995
  5. 5)Ozawa T,Nose K, Harada T, et al:Treatment of osmidrosis with Cavitron ultrasonic surgical aspirator. Dermatol Surg 32:1251-1255,2006
  6. 6)Chung S,Yoo WM,Park YG, et al:Ultrasonic surgical aspiration with endoscopic confirmation for osmidrosis Br J Plast Surg 53: 212-214,2000
  7. 7)井上淳、福屋安彦、山田雅道ほか:超音波メスによる腋臭症手術.太田総合病院学術年報33:1-5,2000
  8. 8)阿部浩一郎:超音波メスによる腋臭症治療(第2報);術式の工夫による効果の改善と合併症の削減.日美容外会報17:159-164,1995
  9. 9)安田由紀子、村岡道徳、原田輝一ほか:超音波メスによる腋臭症手術の成績;直視下アポクリン線剪除法との比較.形成外科45:273-277,2002
  10. 10)武田啓、鈴木敏彦:外科的治療 キューサー法.腋臭症・多汗症治療実践マニュアル、細川瓦ほか編,pp86-90,全日本病院出版会、東京,2012
  11. 11)Park TJ, Shin MS:What is the best method for treating osmidrosis? Ann Plast Surg 47:303-309,2001

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